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2014/05/12

「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」森アーツセンターギャラリー

連休中、森アーツセンターギャラリーに「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」を見に行ってきました。メインヴィジュアルに使われているルソーさんの絵は2010年にオランジュリー美術館で見て夫婦ともにお気に入りの絵なので、それが来るとあっては行かねば!と手ぐすねひいて開幕を待っていました。


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で、実際見てみたらば「かわいい」だけではなく味わい深い美術展でございました。画家の子供達を描いた絵が多いということで、そのご一家が代々大切に所蔵しているものが多いのでしょう。日本初公開の作品も多くて興味が尽きませんでした。

19世紀〜20世紀の絵画スタイルの変遷、親しみ深い画家達の絵を家系図的に絵を見る新鮮さ、モデルとなった子供たちが当時の社会でどんな存在だったか などというところまで見てとる事もできて、最初から最後まで見どころがみっちり詰まっています。いろんな視点から楽しめるので大いにお勧め。


構成は以下の通り。
序章
第1章: 家族
第2章: 模範的な子ども
第3章: 印象派
第4章: ポスト印象派とナビ派
第5章: フォーヴィスムとキュビスム
第6章: 20世紀のレアリスト


感想を書いているうちに(いつもの事とはいえ)収拾つかなくなってしまったので、そのまま出します(笑)。てきとーにご覧いただければ幸い。


全体の構成は時代と絵画の流派でざっくり区切った展示になっていて、こういう流派別の見せ方だと、割と「ふーん、この部屋はあまり興味持てないなー」なんて事に私の場合はなりがちなのですが、「こども」という統一したテーマで見せる事で、最後まで面白く見る事ができました。

絵画の表現手法が変わっていくだけでなく、画家とモデルの関係性、描かれる子供の気持ちまで触れているのも親しみが持てた理由かしら。上流社会の子女が着飾って描かれるものだったのが、広く生活そのままの子供たちが描かれる様になり…という、子供の社会での位置づけの変化というようなものも見てとれます。


その中で私が気にせずにはいられなかったのが、近年になるまでそこに絶えず死の影がちらついていた事。19世紀には珍しくなかった子供の夭逝が、極めて身近に感じられた展示でした。実際に病気の子供を描いたものもありますし、例えばアンリ・ルソーのように最初の結婚で7人の子を授かりながら6人は早くに亡くなり、残りの1人もその母が亡くなった後はルソーと縁遠くなってしまった、というような形で意識することも。

ルノワールが描いた息子のジャン(のちに映画監督になったジャン・ルノワール)やピエール、そしてドニの息子アコの姿が女の子のような格好をしているのは、すなわち夭逝することの多い男の子に女児の格好をさせる習慣が残っていたという事で…子供の死が身近だった時代の当然の風俗が描かれているのは、「かわいい」と簡単には片付けられないものがあります。

また、ベルト・モリゾを含めた母であり妻たちの死という事にも気持ちが向いてしまいました。妻に先立たれた夫、母を失った子供たち…。死による家族の喪失に目が行ってしまうのは私個人の意識ですが、そんな見方をした人もいるということで。。。


でも、それ以上にこの美術展にそそられたのは、画家の家族、あるいは画家と家族という繋がりやエピソードでした。展示の合間に、画家とモデルたちの人物相関図というか家系図がいくつも並んでいた事からも、それは美術展の見どころそのものだったのですけれど。


最初に意識させられる、というかこの美術展の柱になっているのは デュビュッフ一家ですね。序章から登場するクロード=マリー・デュビュッフとそれに連なる家族の系譜。

日本ではあまり聞かない(つか私が知らなかっただけかな)デュビュッフという画家の絵があちこちに並んでいるのは不思議な心持ちでしたが、展示途中に掲示されていたデュビュッフ家の家系図の中に、この美術展(フランス開催時)の企画立案者でありオランジュリー美術館元館長のエマニュエル・ブレオン氏の名前を見つけて「なるほど!」と。この方ゆえに、デュビュッフ一族所蔵の絵を多く見ることが出来たのだし、他の出展画家についても遺族が所有する貴重な作品を集める事ができたのでしょう。

ギヨーム・デュビュッフが描いた従妹や子供たちの水彩はとっても素敵でした。このギヨームさん、エリゼ宮(フランス大統領官邸)やコメディー・フランセーズ(劇場)、ル・トラン・ブルー(映画「ニキータ」にも登場するリヨン駅内にある豪華なレストラン)などの装飾画を多数手掛けた方だそうなので、フランス人にとって非常に身近な存在なのかもですね。


そして、印象派の人々。今回(ルソーさんの絵を見るのと同じかそれ以上に)楽しみにしていたのは、ジュリー・マネを描いた絵を見る事でした。

ベルト・モリゾとウージェーヌ・マネ(エドゥアールの弟)の間に生まれたジュリーの絵は、母ベルト・モリゾや後見人だったルノワールなどが描いたものが多く残っていて、私にとっては絵のモデルとしてだけではなくその生涯が気になる人。

画家夫妻の娘で伯父も偉大な画家という出自。16歳で孤児となった後はマラルメやルノワールが後見人として成長を見守り続け、いろいろな画家たちのモデルを務め、自身も絵筆をとった女性です。

彼女の後見人だったマラルメの創作活動や交友関係を考えると、ジュリーがいた世界は私が好きなものがいっぱいつまった世界そのものだったハズ。そんな彼女の日記は書籍化されているのですが(「印象派の人びと ジュリー・マネの日記」)私が興味を持った時には既に絶版になっていて、お読みになった方が引用した断片をあちこちで見かけるのみ。はー、再販希望なりよ…。

出展されていたジュリーに関する絵画や版画はそう多くはありませんでしたが、モリゾやルノワールが子供の頃の彼女を描いたものは、愛情に溢れた美しいものでした。ジュリー本人が甥のオーギュスタン・ルーアールを描いた肖像画もあったし、ジュリーの夫エルネスト・ルーアールが妻を描いた「書斎のジュリー」を見た時にはちょっと胸が熱くなってしまいました。

逆光の室内でぼんやりとしか見る事が出来ないジュリーの横顔には、それでも母やルノワールたちが描いた少女の頃の面影がみられます。書斎の机に向かい手紙をしたためる姿には品があり、室内も美しく心地よさそうに整えられています。何より絵にあふれているのは描き手である夫の愛情。幸せな後半生を送った事がうかがえる、しみじみよい絵でした。これを見ただけでも来た甲斐があった、と満足。


しかし満足するのはまだ全然早かった(笑)。この後もこちらを前のめりにさせる展示が更に続きます。

共に画家だったピカソとフランソワーズ・ジロー夫婦が描いた2人の子供パロマとクロードの絵が展示された一室は圧巻。ピカソが子供2人に作ってあげたお手製の紙のおもちゃなども展示されていて、家族の親密な空間にお邪魔したような気持ちで微笑ましくも感じられますし、自身が子供のような無邪気で奔放な筆使いのピカソの絵がよい。そしてそれ以上に、美しい色遣いと愛情に溢れたジローの絵が素晴らしかったです。

このお部屋、1枚1枚を見ると幸せで微笑ましいのに、絵から数歩離れて展示室全体をぐるっと見渡すと、ピカソとジローの芸術家としての業のようなものが室内に充満しているのに気付いて、くらっとしたりも。


モーリス・ドニの家族絵は6点ありましたが、どれも安定の素晴らしさ。明るい光と幸せな笑顔に満ちあふれていて、子供達の笑い声が聞こえてきそうです。そういえば、展示途中の映像コーナーで今回来ている絵のモデルになった方やその血縁の方などのコメントが流れているのですが、そこに出てくるドニのお孫さんが、ドニの描くお子さんによく似ていて嬉しくなってしまったわ。

アンドレ・ドラン「画家の姪」は椅子に片膝を預けた少女の絵。この頃のドランのアトリエにはバルテュスが親しく通っていたのだとか。この後バルテュス展を見に行ったので、先にこの絵を見といてよかったな、と思ったのでした。ヴュイヤールは画商の息子と妻を描いた「クロード・ベルネーム・ド・ヴィレールとその母」が好き。愛知県美の常設で何度か見ているボナールの絵も、この美術展の文脈だとまた違って見えたのがよかったです。


更に、20世紀のコーナーは最高に予想を裏切られる素晴らしさ。レンピッカ、キスリング、パスキン(の2点は北海道立近代美術館の充実したパスキン・コレクションから)など好きな画家が導入にいたのも大きいかもしれませんが、それにしても佳作揃い。私の場合は、初めて知る画家を見る悦びにも満たされて大満足です。最後の部屋にこういう喜びと驚きがあるのは、いい美術展だなーと改めて。

印象派の章でモデルとして登場したオーギュスタン・ルーアール(描いたのはジュリー・マネ)がこの章では画家として登場。その2枚の絵はかなりのお気に入りとなりました。

この部屋で特に際だっていたのはダヴード・エンダディアンという画家が息子と娘を描いたそれぞれのプロフィール(横向きの絵)でした。映像コーナーでモデルになったお嬢さんが語っていた通り、この画家は美しい光を何よりも重んじていたようで、それが好もしいと感じる大きな理由かもしれません。そして完璧な構図。この方は大樹をテーマに描き続けた人のようですが、オフィシャルサイトで見た絵からはやはり光の表現に執着した人なのだという印象。


そして最後にフジタという変化球かつ大きなボーナスが待っていました。

フジタが描く子供の絵は他の誰とも違っています。フジタと子供たちが同じ目線にいるようにも思うのだけど、ピカソのように子供目線で一緒に遊ぶ感じでもないし、独特なのですよね。子供たちの中にある大人びた部分とフジタの中にある何かが呼応するのかなぁ。

殊更愛らしく描く訳でもなく、ふてくされたり すまし顔だったりする子供たち。「フランスの48の富」は、小さく区分けされた正方形のスペースにフランスを代表する名所やイベント 食べものなどが、子供達を通して表現されています。48の小さな絵と対応するキャプションとをじっくり見比べて鑑賞する人がほとんどなので、絵の前から人が途切れる事がありません。早めの鑑賞をお勧めしたい所以です。

最後の「機械化の時代」は、機械化・電化されて便利に進化していく生活に難なく適応して使いこなしていく子供たち。フジタの彼らへのエールのようにも思えました。メカもの?がたくさん描き込まれているのも楽しい。

フジタで絵の中の子供に新しいスタイルが生まれて、さあ今後は、、?という終わり方も大いに気に入りました。


さて。
この美術展の元になった「Les enfants modeles」という美術展がフランスで開催された際は、20万人が訪れる成功を収めたのだそう。鑑賞後にずっと考えていたのですが、フランスの人たちにとってこの美術展にちりばめられた描いた人/描かれた人のエピソードっていうのは、割と身近な話題なのだろうと思うのですよね。

ジャン・ルノワールやパロマ・ピカソ、ジュリー・マネや彼女の結婚相手であるルーアール一族などに限らずとも(幼いクロード・レヴィ=ストロースをモデルに父が描いた絵もあった)芸術家一家でそれぞれに知られる業績を残してもいるでしょうし、あるいはその人をモデルにした別の絵に親しんでいるかもしれない。そんなところが興味をそそるのかな、と何となく思ったりしました。いや、そう考える私が下世話なのかな。


だいぶ長くなってしまいましたが、それくらい受け取るものの多い美術展でした。意外に今年見た美術展の上位に食い込んでくるかも。6月末まで、空いているうちにぜひ。その後大阪市立美術館(2014/07/19-10/13)へ巡回するそうです。


こども展 名画にみるこどもと画家の絆
2014年4月19日〜6月29日 会期中無休
10:00-20:00(火曜日は17:00まで)
森アーツセンターギャラリー

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