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2012/12/15

「マンチェスター大学ウィットワース美術館所蔵 巨匠たちの英国水彩画展」

これも先月の事ですが、Bunkamura ザ・ミュージアムで「マンチェスター大学ウィットワース美術館所蔵 巨匠たちの英国水彩画展」を観ました。既に終了してしまっておりますが…(この後、新潟県立万代島美術館に巡回)。東京に来る前に 岡崎→島根と開催されて、待ちきれなくて岡崎まで行こうと真剣にスケジュール立てる位(結局行けなかった訳ですが〜)に楽しみにしていた美術展でした。

会期終了まで2週間を切っていたからか、なかなかの混雑(ザ・ミュージアムは比較的いつ行っても大抵混んでいますが…)。

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さて、構成は以下の通り。

第1章 ピクチャレスクな英国
第2章 旅行: イタリアへのグランド・ツアー
第3章 旅行: グランド・ツアーを越えて、そして東方へ
第4章 ターナー
第5章 幻想
第6章 ラファエル前派の画家とラファエル前派主義
第7章 ヴィクトリア朝時代の水彩画
第8章 自然


ほぼ年代順に構成された8章立て157点、相当にボリュームのある展示でした。そんなにじっくりどっぷり見たつもりはなかったのに、出てきた時はけっこう時間が経っていて驚きました。風景画がメインなので、イギリスに詳しい方ならば、かの地に立ってその空気を肌で感じた人ならば、きっと更に面白かったろうなぁ、と自分の経験値の低さを残念に思いましたですよ。

しかし、そんな私でも年代順の章立てのおかげで、水彩画という表現方法が世の様々な発展や価値観の広がりと共に変化を遂げていく様子が判る、とてもよい展示でした。


お目当てはターナーとラファエル前派あたりだったのですが、ターナーは大きな一部屋まるごと+αで31点だったかしら…とにかくあらゆる年代の様々な試みが見てとれる作品が並んでいて感心しきり。一番素晴らしいと思ったのは、本展のメインビジュアルに使われている「ルツェルン湖の月明かり、彼方にリギ山を望む」でしたけど(他のスイス方面で描いた絵もよかった〜)「旧ウェルシュ橋、シュロップシャー州シュルーズベリー」の水面に映る橋の表現ったら!200年前の水彩画を今もよいコンディションで鑑賞できることも、本当にありがたいことです。

ラファエル前派のウィリアム・ホルマン・ハントがエルサレムやエジプトを訪れて描いた風景画が何点か。展示されていた絵は水彩+グワッシュでしたけど、色遣いやタッチは明らかに独特。あら風景画も描くんだーとちょっと驚きました(笑)。彼の絵の異国情緒を感じる部分は、こういった旅が影響していたのかな、と知らないなりに思ったのですが、家で図録を読んだら「宗教的な絵を描く時に、掛け値なしの事実を求めて聖地を訪れ、それらを記録する事で聖書の伝える出来事を理解できる」と考えていたのだとか。これから彼の聖書を題材にした絵を見る時、その厚みをぐっと身近に感じられるかもしれません。


しかし第4章までずっと風景画が続いていましたから、やはり多少飽きが来ていたのでしょうね。いくら幻想主義的な絵が大好きだからとはいえ、第5章「幻想」での自分の中の盛り上がりには笑ってしまいました。絵のストーリーが感じられるだけで、こんなにも入り込めるのか、と(笑)。笑っちゃうくらい凡人すな。(もちろん、そこまでの風景画にも物語が感じられるものはいろいろあったのですけどね)

第5章の絵はみんな好き(笑)。シメオン・ソロモン「律法の巻物を運ぶ」もとても印象に残っているし、ウィリアム・ブレイクもいい。でも一番はサミュエル・パーマー「カリュプソの島、オデュッセウスの船出」。今年だけでもけっこうな数を見た「オデュッセイア」を題材にした絵の中でも、かなり上位に来るくらい好き。太陽の方に向かって船出していくオデュッセウスがカリュプソに手を振っている。カリュプソは両手を差し出してオデュッセウスに別れを告げる後ろ姿。何とも晴れ晴れとした船出を描いたように見えるこの絵の、後ろ姿のカリュプソ…なんとも詩的でさめざめと悲しく美しい絵でした。

ラファエル前派はミレイ、フォード・マドックス・ブラウン、シメオン・ソロモン、ロセッティ、バーン=ジョーンズなどなど。ミレイ「ブラック・ブランズウィッカー」の恋人たちやロセッティ「窓辺の淑女」も言葉にしがたい美しさだけれど、ブラウン「ロミオとジュリエット」のドラマティックさは圧巻でした。ティボルトを殺めてヴェローナの街を去らねばならぬロミオが、最後の夜をジュリエットの部屋で過ごして帰るところ、なのでしょうね。バルコニーの柵をまたがりながらも、右手はしっかりジュリエットの肩を抱き首筋に口づけをしているけれど、左手は真っ直ぐピンと自分が向かう外へと向いているし、片足も縄ばしごにかかっている。ジュリエットのしどけない着衣とロミオの熱情を受ける表情は、その不在のつらさをまだ知らない…せつない瞬間です。


ヴィクトリア朝以降になってくると、水彩画もより「買う人が好む」絵が増えていくようで、だから私などにも親しみやすいものが増えていくようでした。ウォルター・クレインの風景画好きだわ。チャールズ・ウェスト・コープ「黒板をもつ少女」の横顔から見てとれる強い意志にはっとさせられ、マイルズ・バーケット・フォスター「夏季−ふたりの少女、幼子、人形」のぷくぷくした幼子ちゃんが座る様(でも2人のお姉さんはこの子の事放りっぱなしなのよね…)にあれこれ想い。

最後の章「自然」には、肖像画家ゲインズバラによる風景画が。様々な画家たちが風景画をどうやって描いたかが垣間見れる習作もいくつか。静物画や植物を描いたものなどもあって、そういった細やかな観察と描写の延長線上にあるのが風景画だと自然に納得させられた感。アンドリュー・ニコル「北アイルランドの海岸に咲くヒナゲシとダンルース城」はここに。花と風景との描写が、正にこの章の言いたい事の象徴かしらね、と。よく考えられた展示に改めて感心。

えーとたぶん、私がこの美術展での一番の感想は「ウィリアム・ホルマン・ハントってもの凄く真面目で几帳面?」だったかも。ラファエル前派の中でものすごく好きって訳ではなかったのですが、印象アップだわ。


展示の構成も素晴らしかったし、会場内のベンチがウィリアム・モリスの生地張りだったのも流石ザ・ミュージアムと感心。でも何よりスゴイと思ったのは図録。ハードカバーで百科事典ですかってくらいずっしり重いので持ち歩きは大変でしたけど、もの凄く充実した内容なのです。ほとんどの絵にクローズアップが用意されていて細かい描写が(ある意味、実物より)よくわかること、解説の充実度が半端ない事。出展されていた絵の一部については、現在の写真との比較まで出ているのです。さらには各作家の短い解説は絵とは別に用意されているし、極めつけはイギリスの地図が付録についていて、そこに「この絵はここ」って地図に示してあるのです。スゴイよね−。

巻頭の論文はまだ全てには目を通せてないし、出展作全ての解説もまだ読めてない。でもこれはのちのちまでよい資料となるでしょう。こういう図録ならいくらでも買って手元に置きたい。ブラヴォ。

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