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2012/12/13

「藤田嗣治と愛書都市パリ−花ひらく挿絵本の世紀−」

1ヶ月前の話になりますが、旅行の際に札幌の北海道立近代美術館で「藤田嗣治と愛書都市パリ−花ひらく挿絵本の世紀−」展を見てきました。本展は札幌の前に07/31-09/09まで渋谷区立松濤美術館で開催されていたもの。松濤なら300円で見られたものを、わざわざ札幌で1,000円で見る私、と。これが目的の旅行ではありませんが、見逃さずに済んでよかったと心から思える美術展でした。

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構成は以下の通り。

1.「藤田嗣治の挿絵本」
 1-1.愛書都市パリ
 1-2.記憶の中の日本
 1-3.フランス文化との対話
2.「エコール・ド・パリの挿絵本とその時代」
 2-1.花開く挿絵本の時代
 2-2.秩序への呼びかけ

本展の中心の1つは、東京国立近代美術館に一括寄贈された藤田の旧蔵書である挿絵本との事。それに加えて、画家本人と深い縁のあるランス市立図書館、本関係のコレクションが充実しているうらわ美術館、そしてエコール・ド・パリに強みを持つこちらの道立近代美術館と個人蔵のものから成り立っているようでした。

最終日の午後だったので混雑を心配していましたが、かなり盛況ではあるものの人のいない展示を選べばじっくり見て回る事ができたのがよかったです。挿絵本の展示というのは作品サイズが小さいので1つあたりの滞在時間が長くなりがちな事もあり、展示順に見たい方々の行列の方はスゴイ事になっておりましたけどね…。


入場するとまずは油画が2点。「目隠し遊び」という絵は金箔がほどこされたフジタとしては珍しいタイプのような。最初のスペースに並んだものは、1920年代に描かれたものが中心だったかと。フランスで出版されたものが多く、言葉の壁があって本の内容ははっきりとは判らないのはもどかしいところ。木版画だったりエッチングだったり手法は色々ですが、細く意志的な線は彼ならでは。

水彩画を元にしてポショワールが用いられた「エロスの愉しみ」は淡い色刷り。眼鏡をかけてあぐらをかいているクピドはフジタ本人かしら、とにっこりしてしまいました。女性の裸体を描いてもどこか冷淡にすら感じられるさっぱりした視点を感じるフジタの絵ですけれど、この挿絵の恋人達に対してもやはり同じものを感じました。ネガティブな意味ではなくてね。最初のコーナーではこの挿絵が一番気に入りました。


[記憶の中の日本] というコーナーは、フランスの日本についての書籍に添えられたフジタの挿絵。各国の説話を紹介する本の日本編「日本昔噺」を始め、日本のイメージを描いたものが並びます。フジタらしいタッチのものもあるし、浮世絵風のものも。解説には日本への望郷の想いか、と書いてあったけど、私にはマーケティング重視というか(笑)意図的に仏人好みのテイストで描いているように感じられたなぁ。

中でも一際鮮やかだったのが、ジャン・コクトーが日本を訪問した際の紀行文「海龍」の装画。フジタの素描を銅版画にしたもので、これは昨年ポーラ美術館のフジタ展で初めて見て強く印象に残ったものでもあります。歌舞伎役者、相撲取り、芸者、子供たち、といった題材が、画家の面相筆でつややかに描きあげられていて、その線の1つ1つに見惚れずにはいられません。


[フランス文化との対話] のコーナーには、2度目の渡仏後に手がけたものが並んでいました。ようやくお馴染みの藤田スタイルが登場。猫また猫の「夜と猫」に身もだえし、「魅せられたる河」のパリの風景にうっとり。これは下絵も何点か展示されていました。この挿絵の中だと「オペラ座の夢」という半裸の女性が横たわる奥の窓が開いていて、そこからガルニエ宮が見えるっていうのが好き。そりゃそーだよね(笑)。

「しがない職業と少ない稼ぎ」というタイトルのアルベール・フルニエ/ギイ・ドルナンの本に添えられたのは、藤田の連作「小さな職業人たち」から。この連作もかなりの数がポーラ美術館にあるのを見て気に入っていたのですが、こういう形で挿絵になっているのは知らなかったです。いいなー、コレ…。

コクトー「四十雀」はその姉妹編のような挿絵。職業ではなくフランス的なモチーフ、例えば香水、グルメ、オートクチュール、とかそういったものが小さな職業人たちを思わせるタッチで描かれていました。


後半はエコール・ド・パリの画家たちが手がけた挿絵本の紹介で、これもまた非常に面白かったです。

私の大ヒットはパスキン。油画も素描も今まで何作も見ているけれど、今回初めて「いい!」と思いました(笑)。何点か出ていた中で、とりわけ「サンドリヨン」には何とも言えない味があって。シンデレラだって可愛くは描かれていないんですけど、しみじみ好きだったなぁ。にやにやしちゃいましたもの。あれはまたどこかで見たいものです。

ラブルールやシャガール、ヴラマンク、ピカソ、マティスなどに混じって、エルミーヌ・ダヴィッドという方の挿絵も何点か。誰?と思ったら、パスキンの奥様なんですって。言われてみれば、かすかに似たところがあるかも。

お気に入りのデュフィも2点。マラルメ「マドリガル」の挿絵は「らしさ」を感じられるけど、アポリネール「動物詩集あるいはオルフェさまの供揃い」の版画は単色刷りでパワフル。おお、これはもっと他のページも見たいかも…。うらわ美術館所蔵品のようなので、展示される機会があったら訪れたいなぁ。

最後のコーナーは、様々な画家の「ダフニスとクロエ」挿絵を集めたものから。シャガールはもちろん(私これ今年何度目だろう…w)ボナール、マイヨール、ソバージュなどなど。「ラ・フォンテーヌ寓話集」も様々な画家による挿絵が並んでいました。グランヴィル、シャガール、ドレ、藤田…このように同じ作品の挿絵を様々な画家で見るのはとても興味深いものがありました。それだけ、当時のパリは挿絵本がさかんだったという証しですね。

意外な事に、イヴェット・コキール=プランスによるピカソ「ミノタウロマキア」のタピスリーも展示されていました。10月に松坂屋美術館で見たシャガールのタピスリーを制作した方(これ、12/11から松濤美術館で開催されています。またもや300円・笑)。


だいぶ長くなってしまったので、コレクション展については簡単に。

北海道立近代美術館って、企画展とコレクション展(これくしょん・ぎゃらりい)は別料金なんですよね。セット券というか共通券は割引になるのですけれど。そのことを把握していなくて、チケット買う時に「藤田展だけでいいですか?」って質問されて意味が分からず(笑)「はい」って言っちゃったんですよねー。仕方ないので、コレクション展の500円は別に支払って入りました。もう少し親切に教えてくれてもよいだろうにとは思いましたが、私も「はい」って言う前に「だけ、とは?」って聞くべきだったのよね。ははは。


コレクション展は「エコール・ド・パリの古典流儀」と「「クリスタルグラスの輝き−17世紀ヴェネツィアから現代まで」の2本立て。

エコール・ド・パリの方は企画展と重なる画家も多く、企画展の最後のパートを受けての展示になっているのが良かったです。ここでもパスキン充。素描から油画まで22点もありましたよ。いやっほう。それまで何枚見ても響かなかったものが、どこかで「好き」スイッチが押されると何を見ても「ほほう〜」と興味を持てる自分に苦笑いしつつ。

パスキンを始め、ギリシア神話を題材にした絵などもあって、それは「古代への憧れ」というコーナーにまとめられていたのだけど。私はギリシア神話を題材にした絵を見るのも愉しみの1つだから嬉しかったけど、こういった題材の古典回帰は、第一次大戦後に近代以前へ調和への憧れから起こったと言う事は頭に置いておかなくちゃいけないな、と。

このコーナーにあった、ラリックの「タイス」と「花器:バッカスの巫女」は音楽が感じられるようで、とても素敵でした。やっぱ音楽大切。絵もバレエダンサーも振付家も、音楽的な人が好き。


クリスタルグラスの方はヨーロッパ、日本、現代とパート分け。年代順に並んでいるので、技術や工法の進歩、流行が反映されていくのがよくわかりました。集中力が在庫切れしてたのでさらっと流して観てしまいましたけど、ガレの時代はまさにジャポニズムだし、ラリックのラジエーターキャップは型押しで造形の美を追究(かつ、これは工業製品でもあった訳ですよね?)。

ヨーロッパ/日本ともほとんどが「器」な訳だけど、現代のパートは鑑賞の為の立体アートで構成されていて、それは素材としても加工するための技法としても成熟したって事なんだな、と。ガラスという身近な素材なだけに、観る側も下地が出来てるというか、素直に楽しめるなーという印象。

藤田展は私たちが観たのが最終日でしたが、これくしょん・ぎゃらりいの方は、1/20(日)までとの事。


藤田嗣治 本のしごと (集英社新書<ヴィジュアル版>)
藤田嗣治 本のしごと (集英社新書<ヴィジュアル版>)
国立近代美術館に寄贈された蔵書のうちフジタが手がけたものはこちらにまとめられているそうです。

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