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2012/10/23

「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」

先々週に見た美術展の感想を出す前に、先にこちらを出してしまいます。


週末、府中市美術館「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」展に家人と行ってきました。興味はあるけど行こうかどうしようか…と思いながら別の美術展でもらった本展のチラシを夫に見せたんですよね。そしたら、「お、ポール・デルヴォー!」と予想外の食いつき(笑)。全く何でもよく知っている人なんでございますよ。かないませんな。

夫曰く、デルヴォーはある年齢以上の鉄道模型好きには有名なのだとか。自分の絵に鉄道モチーフを入れる事が多く、そういった絵のいくつかが(夫が昔買っていた)鉄道模型雑誌に紹介されていたのだそうです。へー、そうなんだ!と手元の美術展チラシを見てみましたら、確かに電車が描き込まれた絵が何枚も。それなら是非一緒に行こうじゃないか、ということで本日の来訪となりました。

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「夢に、デルヴォー。」…確信犯ではあるのでしょうけど(笑)。


構成は以下の通り。

第1章 写実主義と印象主義の影響
第2章 表現主義の影響
第3章 シュルレアリスムの影響
第4章 ポール・デルヴォーの世界
- 欲望の象徴としての女性、男性の居場所
- 生命の象徴としての骸骨
- 汽車、トラム、駅
- 建築的要素
- ルーツとしての過去のオブジェ
- フレスコ壁画
第5章 旅の終わり


1人のアーティストを特集した美術展を見る事は、その人が作り出したものたちを通してその人生を辿る事と同義である事も多いものです。この美術展もデルヴォーさん(とさん付けで呼びたくなる感じ)の人生をなぞる印象なのですが、更には「夢を巡る旅」、仏語で Odyssee d'un reve(アクサン省略)という美術展のタイトル通り、画家の夢の中をも画家とともにさまよい歩くよう。そういう展示だから、展示作品リストとともにデルヴォーの略年譜が用意されていたのはとてもよいと思いました。

構成の通り、初期の絵には写実主義と印象主義の影響が、続いては表現主義の影響が伺えます。盛り上がりをみせたシュルレアリズムからも大きな影響を受けつつ、後に妻になった最愛の女性タム、電車、駅、古代ギリシア的な宮殿などの建物、そしてランプのある絵。建築を学んだ事によるのか、遠近のパースに狂いがなく、建物や電車の絵が見事過ぎ。

緻密に組み立てられた絵の数々には習作も並んで展示されたものも多く、周到な準備で絵に対峙した努力家であり真面目な面が伺えます。どれも「きっと時間をたっぷり掛けたのだろう」と思わずにはいられない描き込み。なので、晩年にフレスコ壁画も手がけた事はかなり意外にも感じました(フレスコ画は、壁に漆喰を塗りそれが生乾きのうちに描く手法で、やり直しがきかない)。

でも、私の印象に強く残っている墨と水彩で描かれた素描の数々は大胆で力強い即興的な筆運びで描かれていた訳で、それらの素描から伝わってくるドライブ感を思えば、描く事に迷いのない人、必然を持って描く人だったのだな、と納得もできます。


デルヴォーさんは32歳で最愛の女性タムに出逢うものの両親から反対されて結婚できず、その頃からタムとおぼしき女性が登場する絵を多く、執拗と言っていいくらい書き続けたそうです。今回の美術展に展示された絵に登場する女性も多くは同じ顔をした女性たち。18年後の50歳の時にタムと再会してその後結婚する事になったのですが、その後にタムを描いたのは1度きりなんだとか。確かに、眼の前に最愛の人がいるのに絵で追い求める必要はなくなった、のかもですね。

とはいえ、再会から20周年記念の素描とっして彼女に捧げられた「タムとポール」、そして夫婦の名義「Tam et Paul」として描かれた何枚ものグリーティングカードからは、デルヴォーさんの変わらぬ深い愛が見てとれて、それは静かに感動的なのでした。「Tam et Paul」の文字がとても誇らしげ。

視力を失いつつあったデルヴォーは、1988年にタムが亡くなった事をきっかけに筆をとることはなくなったとか。その最後の油彩、「オデュッセイア」よりカリプソ−も見る事ができました。出品作約80点のうち半数以上が日本初公開だとか。

上でちらりと触れましたが、私が好きだったのは、墨と水彩で描かれたものが多かったです。その筆運びは音楽的でもあったかと。これは油彩ではあまり感じられなかった感覚。建物や電車などの素描は拍子のきっちりした音楽、風景などのスケッチはジャズ的で、その即興感を好ましく思いました。

油彩では初期の「森の小径」、まるで函館みたい…とちょっと思ってしまった「夜の使者」(だって坂道の途中を横切ってトラムが走っていて、坂の下には港が見える光景なんだもん)。大作「トンネル」も忘れがたいです。上記府中市美のサイトで代表的な絵も見られますので、よろしければそちらをご参照下さい。

略年譜を見るとバレエの舞台装飾も1度となく手がけられているんですよね。せめて原画だけでも見てみたいなぁ。一体どんな作品だったのかしら。


で、本日10月23日午後8時のBS4「ぶらぶら美術・博物館」で、このポール・デルヴォー展が取り上げられますので、よかったらぜひぜひご覧下さい。私も見るです。この番組で11/6に予定されている笠間日動の美術展も何とか行きたいと思っているんですよねー。

ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅
9/12-11/11 府中市美術館

府中の前に鹿児島でも開催されていたのですが、府中の後は以下の通り巡回するそうです。
2012/11/17 - 2013/01/14 下関市立美術館
2013/01/22 - 2013/03/24 埼玉県立近代美術館
2013/04/06 - 2013/05/26 岡崎市美術博物館
2013/07/20 - 2013/09/01(予定) 秋田市立千秋美術館


常設の方は駆け足になってしまいましたが「明治・大正・昭和の洋画」「小特集 江戸時代の絵画」、そして牛島憲之記念館の展示がありました。一番印象に残ったのはジャン=ポール・ローランス「イレーヌ」。十字架のついた黄金の球体を手に持ち、玉座に座った女性を描いたもの。鹿子木孟郎が師事した先生という事で展示されていたと思いますが、時代が同じ頃だからか、何となく初期のクリムトを連想。黄金だからって短絡的な理由でないことを自分でも祈りたい(笑)。クリムトのような官能性とは無縁なれど、威厳のある女性の姿と室内の落ち着いた色使いがそう思わせたのか…。印象的な絵でした。

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